人生幸福RTA(バグあり)
触れる。祓う。吐く。
触れる。祓う。吐く。その繰り返し。
人生の意味なんて考えるだけ無駄だって学んでから、底のない無気力に飲みこまれていくような感覚を感じ続けている。
そんな変わり映えのしないある日。
術式を受けた呪霊があんまり気持ちよさそうによがるもんだから、あんな馬鹿になれたら俺もちょっとは空っぽを忘れられるのかな、と思ってしまった。
一度思いついてしまえば、それは何より素晴らしいアイデアであり、血の池に垂らされた蜘蛛の糸であった。
行動は速かった。
有り金と服、少しばかりの雑貨だけ詰め込んで家を出た。
家の外は何もかもが新鮮で、心の空洞は埋まりやしなくても光に照らされた。
電車の乗り方も分からずにそれはもう白い目で見られたもんだが、そんな些細な事今の俺にとってはどうでもいいことである。
借りたボロアパートで寝転ぶ。随分窮屈になりはしたが、今日から俺も一国一城の主なのである。
義務教育も受けていない身としてこれから苦しいのは分かっているが、毒を喰らわねば生きていけないあんなところよりはずっとマシだろう。誰の子かもわからない、強いわけでも無い男をわざわざ追いかける気もないだろう。
まあとにかく、目指すは自立。呪術界とは無縁の日々のため、明日から本腰入れてがんばろうと決意した。
布団のない固い床で寝る。布団より幾分か温かい気がした。気のせいだろう。
家を出てから一年。
シャワーを浴びて、服を着て、起きる気配のない女の財布から中身を抜く。
若い女だしホテル代と交通費くらいどうにでもなるだろう。がんばれ。
ホテルを出て、暫く時間を潰し、店に赴く。
ホストクラブ『PHANTOM』が今の俺の根城である。
No.1とまではいかないが好成績を取れており、結構な量の指名もある。同じテーブルに居座れないくらいだ。
別に話術が特別うまいわけでも、面が他より突出して良いわけでも無い。じゃあなぜそれなりの地位にいられるのかと言えば、術式の出力を弱めることに成功し、俺といるとき常にふわふわとした快楽を感じるようにしているからだ。指名客はもはやある種のヤク中である。
まあどうだっていい。女なんてのは金を産む■■■■■でしかないんだから、マトモじゃなくなろうと壊れようと知ったこっちゃない。
「あの、カオルちゃん……今日が正念場やねん。ホンマにちょっとでええから……」
顔の力を抜いて、いかにも深刻そうな声で、一言。
「いいのいいの、わかってるよ。すいませーん、シャンパンタワー一つ!」
チョロい女だ。こういう客が増えているおかげで成績も右肩上がり、嬉しいこった。
軽蔑を瞼の奥に隠して、本日最高の笑顔。
「ありがとお、やっぱり優しい子やね」
先のことなんて考えない、刹那的な快楽に縋る人生。止められるものはもういない。